転職は30才までと言われていた時代があった

私が20代の頃、1990年代、転職は30才までにしないとできないと言われていた。

今から思えば何を言っているのだろうという感じだが、世の中の常識がその辺りだった。

私は大学を卒業して、最初の就職先に外資系企業を選んだが、そこでは5時半に終業時刻を迎えると、すぐに会社を出て帰るのが当たり前だった。

日本の会社から転職してくる人がいると、その人はたいてい20時21時、もしくは終電近くまで残っている場合もあるようだったが、ちょっとあの人おかしいんじゃない、と思っていた。

商社から転職してきた人など、毎晩23時まで残業していると聞いて、自分は日本の会社では働けないな、と思っていた。

当時40代、50代の人たちは、ほとんどが日本の会社から転職してきた人たちなので、ここは定時で帰れるからいいよと、定時で仕事をあがった後、居酒屋に誘っていただき、酔いながら、日本の会社の面白おかしな話を毎晩のように聞いていた。

仕事が終わった後、居酒屋へ行くのは、やはり日本的で、まだ昭和の時代だったので、そこは外資でさえ、そんな時代だった、ということ。

しかし、そんな私が、二つ目で働いた会社は、完全な日系企業だった。それもNHKと伊藤忠、オリックスといった純日本の会社から出向してきた人だらけの衛星テレビ局だった。

447人の応募者から7人が選ばれ、その中の1人として狭き門をくぐり抜けて、さぞ会社としては期待してくださったのだろうと思うが、外資系企業で働いていた私は、会社の期待に全く沿うことができなかった。

そもそもテレビ局で定時に帰るということは、ありえない。それも制作部門であったので、午前様は当たり前。スポーツ番組なので、毎晩21時過ぎまでサッカー中継などがあれば、早くても帰りは23時。家に着くのは翌日の午前様ということも当たり前。翌朝10時までには出社して、またその日の放送の準備を始める、という毎日だった。

会社の中で全てが完結していて、外の友人たちと会う時間など全くない。閉じられた世界の中で、同じ人たちと、毎日毎日顔を合わせている日々。

テレビの仕事をしている人たちは、どこか自分が特別な仕事をしている、と思っているところがあって、その仕事ができているだけで良いだろう、幸せだろう、という雰囲気を醸し出していた。外資系企業で最初に働いた私からすると、なんてところに来てしまったんだと、サッカー中継などという、人も羨む仕事をしていたにもかかわらず、徐々にうんざりした気持ちになっていった。

今となっては、まあ、なんと生意気な新人だったのだろうと、当時上司だった人たちには気の毒な気持ちにもなるが、当時の私にしてみれば、なんというブラックな職場なのだろう、という気持ちで、もう早く辞めたいという気持ちで毎日を過ごすようになっていた。

最初にブラックな企業に就職してしまった人たちは、とても気の毒に思うけれど、私のように最初にあまりにも完成された理想の職場のようなところで働いてしまうと、自分の中の基準が世の中のかなり高いところに設定されてしまうので、それはそれで後々大変になると思う。なので、良いところに入ったとしても、悪いところに就職したとしても、どちらも良いところ悪いところ両面あると思って、次に生かしていくことを考えることが良いのだと思う。

当時転職は三度まで、などと言われていたが、二十代のうちにすでに三度も転職をしてしまった私は、その後も転職を重ねたが、運だけはあるもので、悲惨な生活に陥ることもなく、あと数年で定年の年齢を迎える。

自分で会社を作ったり、NPOのようなところで働いてみたり、週休三日で働いてみたり、正社員を辞めて一年ぶらぶらした後で、また元の会社に復帰できたり、普通では考えられないような幸運に恵まれていたとはいえ、私が就職した頃の常識から考えれば、ありえないキャリアとなっている。

学生時代、リクルートでアルバイトをしていたので、少しは内情を知っている立場で言わせていただくと、リクルーティングの会社の社員が言うことは、あまり真に受けないほうが良い。特にリクルートを辞めて成功する人たちは、皆一人で立って勝負に出られる人たちで、中に残って居続ける人たちは、それができない人たち。

ましてや、転職活動を支援する人たちは、その時代の常識から抜け出せないから、そこから離れられない人たちなので、時代の先をいくつもりでいるなら、あまりリクルーターの話を聞きすぎないほうが良い。

つなぎの仕事で手伝っていただいたことはあるが、少なくとも日本のリクルーティング企業に転職でお世話になったということは私の場合はない。まあ、常識はずれな経歴なので、理解されない、ということがその背景にある。

その時々で非常識と思われる行動でも、時代の流れに乗っているのであれば、必ず時代が後からついてくると思う。

子供三人無事大学を卒業して就職できたし、家も別荘もクルマもあるし、今のところ借金で首が回らない状況にもなっていないし、なんとかここまでやってきた。

とにかく自分を信じること。時代は必ず変わる。

人生折り返しを過ぎて、この後まだどうなるかわからないけれど、自分の直感を信じてよかったと思っている。