ゴーン追起訴でJOC会長捜査開始。日本政府は徴用工問題で対抗できるのか。リーダーに守る気がないと内部統制は効かない。
目次
平成生麦事件
幕末に横浜でおきた生麦事件。
薩摩の大名行列の脇を、馬に乗ったまま通り過ぎようとした英国人が、ふとどきものとして斬り捨てられた一件。
英国人にしてみれば、なぜ斬りつけられるのかがよくわからない。
日本人にしてみれば、なぜお殿様の前で、馬から降りようとしないのかがわからない。
いまのわたしたちから見れば、どちらの言っていることもよく分かります。
フランスは、大統領でも不倫が許される国。仕事をしっかりとしていれば、少しくらい大目に見ろよと、国民も大人の対応。
社長によるクーデター
結局、取締役会で解任される寸前に、現在の日産西川社長が、ゴーン会長に対してクーデターを仕掛けたらしい実態がうっすらと見えてきました。
取締役会は、会長、社長の暴走を食い止める役目があります。ところがそれが出来なかった。
現取締役陣の罪になるはずが、その点については司法取引によっておとがめなし。
親会社から来ている会長とその子飼いの社長を失脚させ、自分たちの罪は帳消しにする。
そんな一粒で二度おいしい幕引きをねらった構図が見えてきました。
使われた検察
検察はうまく利用されたかたちです。
ゴーン氏は、有価証券報告書に報酬を少なく記載したことで、起訴されています。しかし、東芝の不正会計問題や、福島原発への対応にかかる東京電力のガバナンスのほうがよほど大きな問題です。なのに、東芝や東京電力の取締役を起訴する話は聞こえてきません。
ゴーン氏の事件は、会長がお手盛りの報酬を独断で決め、まわりが止められなかったという、日本中で普通に行われていることを、スケール大きく行っただけのこと。
出来もしない成果を報告させた東芝の経営陣や、数十万人もの人たちが避難を余儀なくされている福島の問題と比べて、その対応の落差がひどすぎます。
検察がすべきことはほかにあると思います。
数学の国フランスの対抗策
フランスからしたらそんな微罪でゴーンを捕まえるな、ということなのでしょう。
フランスのエリートは、その結束力がとても固いと思うので、どんな手を打つのだろうと思っていたら、JOC会長への捜査、という一手を出してきました。
オリンピックを来年に控えて、ここでJOC会長が逮捕されると、日本としては大きな痛手です。
日本政府はどんな対抗策を打ち出すのでしょう。
フランスはさすが数学の国。25を20と5(ヴァンサンク)、80を4つの20(キャトルヴァン)、といった数え方をする国。複雑な計算もお手の物。
1、2,3、4と単純に数え上げていく日本の素直な国民性とは異なります。
デカルトの国。ナポレオンが生まれた国です。
オリンピック開催の前年にJOC会長への捜査。じわじわと攻めてきます。
日本政府もこれでぼーっとしていられなくなりました。
チコちゃんに叱られます。
ガバナンス(内部統制)とモラル
私は、フランス企業の内部統制(J-SOX)担当者でした。取締役会のガバナンス、内部統制をどのように効かせるか、ということを考える仕事です。
私の勤めていた会社は、ガバナンスが効いており、ホールディングカンパニーがしっかりと傘下の会社を管理していました。
しかし、危うい場面は幾度となく目撃してきました。
取締役会が会長、社長を抑えると簡単に言いますが、実際は無理です。社長が取締役を任命するのですから、任命してくれた人に楯突くことはしません。
社内の人間が社長に意見することが無理だからこそ、社外取締役を招き入れ、外部委員会を作って管理するわけですが、実際のところ、組織の外にいたのでは、中のことはわかりません。
内部統制の大前提があります。
経営陣が内部統制を守ろうとしない限り、内部統制は保たれない。
これはCIA(Certified Internal Auditor)の教科書にも書かれている大原則です。
つまり内部統制の機能の整備がどれほど進んでも、経営陣がそれを尊重しなければ崩れる。これはアメリカの政権を見ていればよくわかります。東芝、東電にしても同様です。
薩英戦争で薩摩は気がついた
生麦事件の後、英国海軍の圧倒的な軍事力を目の当たりにし、薩摩は倒幕に傾いていきます。
これから新しい時代を迎える日本はどうでしょう。変われるのでしょうか。
日本の検察官は、学生時代、司法試験の勉強に打ち込んできた人たちです。
中には海外帰国子女や、子供の頃に海外で暮らした人もいるかも知れません。
しかし、そのほとんどは、高校生のころは受験勉強に、大学生になると司法試験の勉強にその時間を費やしてきた人たちです。
学生時代に海外を放浪していた人はおそらく検察官にはならないでしょう。
検察官になるくらいですから、正義を求める気持ちは人一倍強いと思います。しかし、その正義が検察の正義である可能性があることを忘れてほしくないと思います。
日本の中で純粋培養された、日本の法律体型が正義だと信じて机に向かってきた人たち。江戸末期の尊王攘夷派の幕臣と同じです。
しかしいま、時代は大きく動いています。検察はその動きについて行くことが出来ているのでしょうか。
村上世彰氏、堀江貴文氏、鈴木宗男氏、佐藤優氏。
ここ数年来、検察が行った大がかりな捜査は、結果として日本のためになったとは思えません。
日本が変わるべきときに、その足を引っ張ることを繰り返してきたようにも見えます。
日本の司法制度は国際化できるのか
今回の事件で良かったことは、日本の司法制度のおかしな点を海外メディアが突いてくれたことです。
日本のメディアは記者クラブ制度に守られて、官庁からリークされた情報を流すことが一つの仕事となっています。検察官から情報をもらいながら仕事をしているので、検察に問題があっても、よほどのことがない限り指摘することが出来ません。
勾留の延長と起訴を繰り返し、認めるまで外部との接触を断つ。
有罪が決まったわけでもないのに、罪人に仕立て上げられていきます。政治家も新聞記者も怖いので検察に物申す人がいません。日本の暗部です。
外交ベタでお人好しな日本
内に強く、外に弱い日本。
韓国の司法が徴用工の問題で、日本の企業に賠償金の支払いを命じています。
日本とフランスの構図と似たことが、韓国と日本で起きています。
韓国に駐在する日本大使を引き上げる話が出ているようですが、もっとフランスのように、エスプリの効いた、遠回しながら相手をうならせる手が打てないものでしょうか。
藤井聡太棋士のように、先の先が読める天才的な外交官はいないのでしょうか。
大使を引き上げるという直接的な方法ではない、ほかの何か。
外務省は手持ちのカードを準備していないのでしょうか。
私はフランスにも、韓国にも友人がいます。良い関係でいてほしい。
直接的なカードを切るにはまだ早すぎます。
フランスが日本に突きつけてきたような、相手をうならせるような外交カードを、韓国に対しても出せる日本になってほしいと思います。