都市対抗野球
都市対抗野球の中継の仕事をしたことがある。スポーツチャンネルの制作部で番組制作の仕事をしていた、まだ二十代の頃だ。
東京ドームの中で試合は行われているのだが、番組そのものは制作会社に制作を委託している。なので、我々発注側のスタッフは作っているのを外で見たり、送信がうまく行っているかをモニターを眺めて確認をしているだけだ。
確認といっても、ずっと野球の試合が流れているのを見ているだけで、特にすることもない。ずらりとモニターが並ぶ副調整室というところで、送出用のラインが通るモニターをじっと眺めて、野球の試合が滞りなく放送されていることを確認するのが仕事だ。
時々、土砂降りの雨が降ると画像が途切れる。東京ドームは快晴でも、三万六千キロ上空の衛星までの間に、雨雲があり雨が降っていると画面にノイズが入る。NHKのような大組織であれば、東京から札幌に送出元を瞬時に切り替えることによって、何事もなく放送が続けられるのだが、当時はCS放送が始まったばかりで、我々は資金力もなく、画面にノイズが入っても、打つ手もなく、文字通り天に祈るしかなかった。
モニターを見ているだけだとつまらないので、時々ドームの中へ試合を見に行った。基本的にはモニターを見ていなければならないのだが、それは建前というもので、制作会社のスタッフもモニターは見続けているので、局側の人間が本当はいてもいなくてもどうということはない。何かあれば携帯電話で呼んでもらうことにして、ドームの中を時々散歩した。
東京ドームの送信設備は実は球場の外の、遊園地のすぐ脇にある。妙なところに階段がありそこを降りて行くと、モニターがずらりと並ぶ部屋があるのだ。そこは、ケーブルテレビ会社の施設でもあるので、ケーブルテレビ会社の人は二十四時間体制でモニターを監視していた。
そんなところにあるので、球場へ入るためには、一度外に出て、暑い中を小走りに移動して、ドームの中へ入る必要がある。
都市対抗野球は都市対抗と言いながら、実際は野球部を持つことができる大企業のイベントだ。日本を代表する企業の名前のついたチームが、いくつも出場しており、会場の外では、次の試合のチームの会社の人たちが、スーツ姿のまま応援に来ていたりした。
既に平成の時代にはなっていたけれども、企業の一体感を高めるために行われている会社尽くしのイベントは、昭和の原風景と言えるかもしれない。
最近は野球自体がサッカーに押されて、地味な印象だけれども、都市対抗野球のニュースを見ると、東京ドームに通っていた日々が思い出される。
返す返すも、仕事には楽でまあまあ楽しく給料の良い仕事と、大変で苦労が多い割にまるで給料のもらえない仕事があるのだと、つくづく思う。