東海道五十三次18日間ひとり歩き Day8 府中(静岡)ー丸子ー岡部ー藤枝ー島田(大井川) 35k
東海道五十三次 八日目
府中(静岡)ー丸子ー岡部ー藤枝ー島田(大井川)
歩行距離 三十五キロ
一日の歩数 五万八百四十二歩
目次
静岡
九時に静岡市を出発。平日の朝、市中心部、スーツ姿のサラリーマンの中に、ランニングサポーターで下半身を固めたおじさんが大きなザックを背負って歩く。周りを見ることに気を取られていたら、アップルウォッチのウォーキングモードをスタートさせるのを忘れていた。市街地も半ばを過ぎて気がついた。
丁子屋 とろろ汁
安倍川を越える頃には雨も強くなる。静岡県は、今日一日中雨だ。安倍川を過ぎて丸子の宿も終わる頃、とろろで有名な丁子屋が見えてきた。まだ早いので、写真だけ撮って素通りする。
雨が降っていると、涼しい。これはウォーキングには案外メリットがある。天気が良いと景色は良いが、雨が降ると涼しくなり、必要な水分が目に見えて減る。九月の晴天下は、まだ夏の余韻が残っている。熱中症警戒情報が出ている。歩くには曇り空くらいがちょうど良い。
宇津ノ谷峠
やがて、国道一号線に合流すると、宇津ノ谷峠が現れる。手前の道の駅でちょっとだけ休憩する。ついでに月見そばを食する。外は滝のような大雨が降っている。雨が良い、といっても適度な雨のことだ。ここまでひどいと、外に出るのも躊躇する。
峠を越える方法は四つある。万葉の昔からの山道。大正時代にできたトンネルを通る国道。そこから分かれるいわゆる旧東海道。そして今の国道一号線。道の駅のすぐ脇から始まる、万葉の道の入り口付近は、小さな滝のようだ。登山道から水が流れ落ちている。危険と疲労を考えて、国道一号線のトンネルを直進した。
トンネルを抜けると、そこは藤枝だった。
雨音がトンネルにこだまして、トラックの掻き立てる爆音と壮絶な轟音を煽りたてる。走る車の風圧でカサの骨が折れてしまうので、いったん中の方に向けてカサを開く。そしてくるりと風にのせて半身になって、そのまま風と一緒にトンネルの外に出る。出た途端にカサを大粒の雨が叩きつける。
岡部の宿
岡部の宿に公園があり、濡れていないベンチがあったので、そこに腰を掛ける。八日目ともなると、体の各所に疲労が蓄積している。力の入れ方を間違えると、ぐりっといきそうだ。ザックのレインカバーが大活躍。これがなければ中身は水浸しだろう。
小野小町 姿見の橋
しばらく休み、また歩き続ける。小野小町が水面に映る自らの容姿の衰えを嘆いた橋をわたる。自らの体力の衰えを嘆きながら渡る。人は年をとる。一年一年。確実に。一週間もすれば、体も出来上がって、四十キロくらい普通に歩けると考えていたが、思っていた以上に、回復しない。二年間の不摂生が、ここに来て重い結果となってのしかかる。
藤枝
藤枝市内、商店街の屋根のあるアーケードに差し掛かり、雨に濡れずに座れるベンチを発見。そこで肩の荷を下ろす。身体中が汗と雨で濡れているので、お店に入れる状態ではない。なので、こうしたベンチはとても助かる。よくおじいちゃん、おばあちゃんが通りのベンチに腰掛けているのを見るが、今の私のような気分でホッと一息ついていたのだと気付く。その年齢になってみないとわからないことは数多い。人の一生は飽きずに過ごせるように新しい発見が続く。
屋根が切れると、再び滝壺の下を歩く。カサをバラバラと叩く音が続く。首を潜めてカサにしがみつく。力を入れているせいか、わずか八十六グラムのカサが重く感じてくる。カサが重いというよりも、腕を上げたまま二十数キロ歩いているので、血の巡りが悪くなるのかもしれない。右手で持てば左腕が濡れるし。左手で持てば右腕が濡れる。体全体含まれる水分量が全部合わせると数百グラムにでもなるのではないか。全体が重い。
島田
この一週間毎日最終盤で考えていたこと。止まらなければいつかは目的地に着く。そう止まりさえしなければ、目的地には必ず着くのだ。マメのことを書かなくなって久しいが、靴を変えてからも、マメ製造工場のような靴ではないが、やはり、マメはできる。足をいったん止めると、最初の一歩が激痛とともに始まり、その後の二、三分間は、恐る恐るの足運びになる。なので信号が怖い。信号で一分くらい止まると、次の一歩でまた痛みがぶり返す。結局足を運び続けていると、人の足は痛みを感じなくなるように出来ているようだ。
晴れ男の私だが、今回に限っては曇空を願っている。台風が近づいている。台風よ去れ。
島田に着いた頃、雨が止んだ。
台風が、私の進路を遮らないように願っている。
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