歩く 東海道五十三次 Day0 江戸 出発直前
出発前日
出発直前。いよいよ出発の時が来た。ぼんやりと構えていたが、準備は大丈夫だろうか。
一番心配なのは、体力。歩けなくなることへの心配。一日四十キロ歩くことへの心配ではない。連日歩き続けることへの心配だ。心の何処かで、大変だったらやめれば良い、と思う気持ちが少しある。でも、やりきるつもりでいないと、おそらく出来ないだろう。今は新幹線もあるので、いつでも帰ろうと思えば帰ることが出来てしまう。江戸時代であれば、一度でかけたら、二度と帰って来ることが出来ない可能性もあったわけだから、覚悟が違う。とは言え、思い詰めてすることは、無理につながるので避けたい。ゆるい覚悟で始めたい。
でかけている間にしなければならないことの手配は済んだ。妻と子供たちとは、ラインで繋がっているから、連絡しようと思えばいつでもできる。困りごとの相談もできる。銀行送金もネットバンキングで自在にできる。江戸時代の旅人と比べれば、超能力を持つ旅人のようだ。
雨具
台風シーズンなので、ポンチョではなく、山用のレインスーツの上下を入れる。ポンチョだと風が吹き上げると、中が濡れてしまう。既に夏の盛りは過ぎたので、着て歩けないことはない、という判断だ。そう考えていたのだが、ザックに入らない。二十五リットルのザックは山用で考えると日帰りサイズだ。もっと荷物を減らさないと。
迷った結果、カサだけ持つことにした。私のものは八百グラムもある。降るかどうかわからない台風のために、レインスーツを持ち歩くことはやめた。
中山道
往きだけ歩いて、帰りは新幹線というのは、どうなのだろう、と、ふと思った。古の旅人は、往復とも歩いたはずだ。十七日かけて歩いた距離を、三時間でワープするなんて、いいのだろうか。そう思って、帰り道、中山道はどうだろうと思い調べてみた。
幕末、和宮が徳川家茂との結婚のために、江戸へ来る時に使ったルートは中山道だ。新幹線に沿って、琵琶湖を北上し、関ヶ原を通り、恵那から木曽山中へ入る。名古屋から東名高速と分かれた中央高速が走る、さらに北側の狭い谷筋を通る。
東海道のように、ビジネスホテルが建ち並ぶ地域ではない。木曽山中は、トレッキングコースのようなものだ。高速道路が通る飯田、駒ヶ根、伊那、高遠のような開けた道ではない。ホテルと言うよりは、民宿を泊まり歩くことになるのだろう。しかし、山好きとしては、町中を歩き続ける東海道よりは、ずっと楽しめると思う。
まずは、東海道。京都まで無事に予定通り歩けることを祈る。三日で足が痛くなって諦める、ということにはなりたくない。
準備はした。あとは歩くだけ。
旅の直前。いろいろな思いが浮かんでは消える。
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