プラハの春 再び
二十三年ぶりにプラハを訪れた。結婚直前に妻と訪れて以来になる。
当時はまだ街灯の明かりも薄暗く、夜のカレル橋は霧の中にぼんやりと浮かんで実に幻想的だった。
あれから二十三年がたち、翌年生まれた長男も既に大学生だ。
母は今年八十歳になる。
長男の就職が決まった話をすると、体が動くうちに記念の旅行を一緒にしたいという。数年前に亡くなった父と行きたかったプラハはどうか、というので調べてみると安い。ということで、行き先はプラハに決まった。
季節は春から夏に変わる直前。緑が眩しい。
プラハ城へ向かう坂道は、急な登坂で、八十の母にはとても厳しい。その母の後ろを大学生になったわが子が後押しする。階段を上るときには、腕を取り、ときどき一緒に立ち止まる。眼下に広がるプラハの街を見下ろす二人を見ていると、季節が一巡したあとのように、以前妻と二人で同じ坂道を上ったことを思い出す。
まだ結婚する前で、でも結婚しようと二人の間では決めていた。その時は夕方で、既に街の明かりも少しずつ点いていたと思う。妻と二人で街を見下ろした、その同じ場所で、わが子とわが母が一緒に街を見下ろしている。こんな日が来るとは思ってもみなかった。
旅はその旅だけで終わるものではない。また再びその場所を訪れたとき、思い出がそこに重なり、またその場所に記憶が積み増していく。訪れた時は違えども、妻との思い出、わが子と母との思い出。それぞれ二つの光景が、その場に重なった。
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