クールジャパンではなくスルージャパン

 海外からの旅行客が増えて、都心では旅行者があふれている。日本の魅力に気付いた外国人が日本を訪れるようになった。そう語られることが多い。テレビ番組を見ても、なぜ日本に来たのですか、といったことを追及し、日本の良さを再認識しようとする番組が、やたらと制作されて、放送されている。

 海外へ出かけると気づくのだが、買いたいと思うものがない。以前と比べて高く感じるのだ。グローバリズムの広がりによって、モノやサービスの内外価格差がなくなってきた、とも言えるが、はっきり言うと、実態としての日本円が弱くなってきている、ということだと思う。

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 以前は、日本へ行きたいと思っても、為替レートで日本円がやたらと強く、他国の人から見れば、割高な為替レートで円に換えてまで、日本でお金を使おうとは思わなかった。ところが。相対的に日本の円が弱くなってきたので、ここ数年海外から旅行者が大勢来てくれるようになった、というのが現実ではないか。その典型的な現象が中国からの旅行者の増加だ。

 東京オリンピックを前にして、日本の不動産価格や株価は、日本銀行が買い支えているので、あたかも好景気のような雰囲気が、株式や不動産に投資している人たちの間からは漏れ伝わってくる。実際に、資産が増えている人たちにとっては、実感が伴うものなのだろう。しかし、そこから切り離されて生きている人たちにとっては、何も実感が伴わない、バブルエコノミーの再来なのだと思う。

 ここのところ、外資系企業のアジア本社は、たいていの場合、シンガポールと決まっている。日本企業で働く人は、本社そのものが東京なのであまり感じていないことだと思うが、グローバルな視点で見れば、いまや東京はアジアの一拠点でしかない。これを象徴するのが平均年収で、シンガポールの平均年収は日本とほぼ同じで、抜かれるのは時間の問題とされている。

 某企業のアジア地区のリージョンヘッドは、シンガポールは暑くて湿気がたまらないと言って、普段は家族とオーストラリアに住み、短期出張でアジア各国を一、二週間ごとに渡り歩き、さぞかしマイレージがたまっているはずと、陰口をたたかれている。麻布あたりの高級賃貸マンションよりも相当立派なプール付の住宅が、安く借りられるのだから、わざわざ東京に住んで、アジア各国を移動しようとは思わないのだろう。

 地域本部の幹部の人たちの給与は当然高いが、そこで働く人たちの給与もそれに合わせて引き上げられていく。シンガポールの平均給与が日本よりも高くなるのも致し方ないのかもしれない。

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 何よりもたまらないのが、日本の扱いだ。アジア諸国の中で日本の発言力がどうしても低下する。予算や情報がシンガポールに握られていると、日本は彼らにお伺いを立てるしかない。財務省と他省庁との構図にも似ている。おまけに、本社からの重点投資先は発展著しい中国となっているため、どうしても中国が優先される。実際、マーケット規模も今後の成長性も明らかに中国市場のほうが大きいから、日本の相対的な立ち位置はどうしても下位になる。

 日本を賛美するテレビ番組が増えているのは、そんな日本の現状を忘れるための憂さ晴らしとは思わないけれども、どこか自信を失っている日本人が自分たちの良いところを他国の人に褒めてもらいたくて仕方がない気分を反映しているようにも見える。

 政府はクールジャパンといって盛り上げようとしてきたとは思うが、実態としては明らかにスルージャパンが進行している。

amzn.to